法人破産についてのQ&A
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Q従業員がいる場合,どうすればよいですか?
法人破産をする場合,授業員は全員解雇することになります。しかし,破産会社の残務処理や帳簿整理のために,申立代理人や破産管財人が一部の従業員に一時的に業務をお願いする場合があります。従業員を解雇する方法は,2つあります。
①「即日解雇」解雇通知の時点で直ちに解雇する方法
法人破産の手続においては,原則,破産申立前に即日解雇の方法がとられます。これは,事前に解雇予告通知を出すと,破産の事実が関係者(債権者や取引先)に知れ渡る可能性があり,混乱を生じかねないからです。
②「予告解雇」通知した日から30日を経過した時点で解雇する方法
本来、従業員を解雇する場合は,少なくとも解雇の30日前には従業員に解雇の予告をしなければなりません。
いずれにしても,解雇するにあたり,1ヶ月の予告期間を置かずに解雇する場合(即日解雇)は,30日分以上の平均賃金を解雇予告手当として従業員に支払う必要があり,破産手続上、財団債権(最優先で返済が受けられる債権)として取り扱われます。しかし,解雇予告をした上での解雇(予告解雇)は,解雇予告手当を支払うだけの資力があれば,解雇予告手当を支払って即日解雇しますが,法人破産の場合,解雇予告手当も支払えないことが少なくありません。その場合,未払の解雇予告手当は,破産手続きにおいて,優先的破産債権(一般の破産債権より優先的に返済が受けられる債権)として取り扱われるのが原則です。
それ以外に,解雇する際には,解雇通知書,源泉徴収票,雇用保険被保険者離職証明書,雇用保険被保険者資格喪失届を準備しなければなりません。また,住民税の特別徴収から普通徴収への異動届や社会保険や厚生年金の切り替え手続も必要になります。
Q従業員に対する未払賃金や退職金等はどうなりますか?
法人破産をする場合,従業員は解雇しなければなりません。しかし,解雇予告手当を支払うことが出来なかったり,従業員に対する未払の賃金が発生していたり,退職金も支払えないといったケースが多く見られます。これらの未払い債権,労働債権として破産手続にて処理されることになります。
①未払賃金(給料)について
破産手続開始前3ヶ月分の未払給料については,財団債権になり,破産管財人により破産財団(売掛金等を回収して原資を形成します)から随時支払が行われます。破産財団が十分に形成されれば,従業員は未払給料の全額の支払を受けることが出来ますが,破産財団が十分に形成されなかった場合は,支払を受けることが出来なくなります。つまり,財団債権だからいって,支払が保証されたものではないということです。
また,未払給料の全てが財団債権になるのではなく,破産手続開始決定前3ヶ月間の給料のみのため,3ヶ月以上給料が未払になっている場合や,解雇してから3ヶ月以上経過した後に破産手続開始決定が出て破産財団が十分に形成されたとしても,従業員は未払給料の全額の支払を受けることが出来なくなります。そのため,従業員のためにも,早期の破産申立が要求されます。
なお,3ヶ月分を超える未払給料については,優先的破産債権となり,財団債権等への支払が完了した後で,破産財団に原資があれば,他の優先的破産債権とともに債権額で按分した割合の配当を受けることが出来ます。また,未払給料の一部については,独立行政法人労働者健康福祉機構が事業主に代わって立替払いをする未払賃金立替払制度というものがあるため,これらを利用することも可能です。
②退職金について
「退職前3ヶ月間の給料の総額」と「破産手続開始前3ヶ月間の給料の総額」のいずれか多い方の額に相当する額が財団債権となります。これ以外の部分については優先的破産債権になります。
③未払賃金立替払制度について
未払賃金立替払制度とは,会社が倒産して給料が未払のまま退職を余儀なくされた労働者に対して,独立行政法人労働者健康福祉機構が未払賃金の一定範囲を会社(労働保険の適用事業の事業主で,1年以上事業を実施している)に代わり立替払いしてくれる制度です。立替払いを受けられるのは,破産申立日の6ヶ月前から2年間に退職した元従業員が対象のため,従業員を解雇して6ヶ月以上経ってから破産申立をすると,その従業員は立替制度を利用できなくなるため,速やかに破産申立をする必要があります。
※立替払いの対象となる賃金
・労働者の未払賃金(役員報酬は対象外)
・退職日の6ヶ月前から立替請求日の前日までに支払日が到来している未払賃金(毎月の給料と退職金。ボーナスは対象外)
※手続の方法と立替払いの額
破産手続開始後に,破産管財人により証明印をもらい,所定の請求書で瀬給手続を行い,立替払いの額は,未払賃金総額の8割です。ただし,退職日の年齢により異なります。
退職日における年齢 | 未払賃金総額の限度額 | 立替払いの上限額 |
45歳上 | 370万円 | 370万×0.8 = 296万 |
30歳以上45歳未満 | 220万円 | 220万×0.8 = 176万 |
30歳未満 | 110万円 | 110万×0.8 = 88万 |
また,解雇する際には,解雇通知書,源泉徴収票,雇用保険被保険者離職証明書,雇用保険被保険者資格喪失届を準備しなければなりません。また,住民税の特別徴収から普通徴収への異動届や社会保険や厚生年金の切り替え手続も必要になってきます。
Q 店舗や倉庫はどうなりますか?
店舗や倉庫といった事業用賃貸物件については,破産申立前に明渡しを行うことが多いです。しかし,明渡しには原状回復をしなければならず,物件内にある動産(在庫商品や什器備品)の撤去(売却等)をする必要が出てきます。これらを行う際には,後に破産管財人から不当な廉価処分(売却)であるといった指摘を受けないためにも,写真撮影をして現状を特定したり,数社から査定を行った上で売却をするなど適切な方法が必要となってきますので,物件の明渡しや動産類の処分(売却)を検討される際には,一度弁護士にご相談ください。
また,債権者対策として事業所を直ちに閉鎖し,財産の保全を図らなければならないなど迅速に破産を申し立てる必要があるときは,申立準備段階で明渡し作業を行わずに,破産管財人により処理してもらうことがあります。ただし,このような場合は,明渡しに要する費用を考慮して,管財人に支払う引継ぎ予納金が高額になる可能性があるため,それらの費用の確保が必要となります。
Q 会社の破産により,代表者の収入はどうなりますか?
会社は,破産により事業を停止するため,代表者(社長)は,それまで受領していた役員報酬を受領できなくなります。そのため,新たな仕事をする必要に迫られます。それまでの経験等を生かし再就職されたり,新たに事業をされる方もいらっしゃいますが,気をつけなければならないのが,破産をすると一部の職業に就けなかったり,資格が(一時)資格停止処分がなされたりすることです(Ex. 割賦販売業者、貸金業者、質屋、旅行業、保険業、警備業、建築業、下水道処理施設維持管理業、風俗業、廃棄物処理業者、古物商…)。
しかし,これらは,免責が確定した段階で解除されますので,資格などをお持ちの方は,一度ご相談ください。なお,破産手続開始決定後に働いて得た給料については、ご本人の自由になります。
Q 代表者も破産しなければなりませんか?
会社の破産手続が終了しても,代表者が連帯保証人になっている場合,代表者に返済義務が残ります。多くの場合,会社の破産手続と同時に代表者の破産手続を行うことになります。
もっとも,代表者が連帯保証人になっていなかったり,連帯保証額がそれほど高額ではなく,代表者の財力で返済が可能な場合は,代表者個人が破産手続をする必要ありません。